米国で売れまくる貝印の包丁「旬(SHUN)」 刃物の街の伝統技術を生かす

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米国で売れまくる貝印の包丁「旬(SHUN)」 刃物の街の伝統技術を生かす

使い捨てカミソリの国内シェア5割を占める貝印。しかしバブル崩壊後には安い中国製品などに押され、「売れても儲からない」という大きな危機に直面していた。巻き返しを図るために周囲の反対を押し切り米国に乗り込んだが、まったく売れなかった。

2014年12月4日放送の「カンブリア宮殿」(テレビ東京)は、「立ち止まっていたら下りのスカレーターに乗っていると同じ」と語る社長の遠藤宏治氏をゲストに、現在は大成功を収めている米国での人気ぶりや、挑み続ける経営戦略に迫っていた。
社名の由来は2代目社長の「繁」

米国の大手輸入雑貨店で大人気なのが、「旬(SHUN)」というブランドの包丁だ。日本刀のような鮮やかな紋様が特徴で、欧米を中心に400万丁を売る大ヒット商品となっている。雑貨店「ウイリアムズ・ソノマ」の店員は人気ぶりをこう語る。

「85%の客が『旬』を買っていくわ。ドイツ製もしっかりしているし長持ちもするけど、一度『旬』を使うと戻れないのよ」

この包丁を開発したのが、鎌倉時代からの刃物の街・岐阜県関市を創業の地とする貝印だ。1908年に現社長の祖父・斉治朗氏が創業。当初はポケットナイフを製造する下請けの下請けだったが、安全カミソリの替え刃の製造に日本で初めて成功して圧倒的なシェアを勝ち取った。

2代目社長である父・繁氏の代では、使い捨てカミソリがヒットし更に大躍進。この時に初めてブランド名を付けたが、「貝印」由来は、繁氏の名前から「シゲル」「シエル」「シェルは貝だ」ということで貝印になったという。

ところが1989年、やり手だった繁氏が急逝。33歳の若さで宏治氏が社長に就任した直後にバブル経済が崩壊する。100円ショップが台頭し、価格破壊の嵐が吹き荒れた。宏治氏は「売れども売れども儲からない。これに巻き込まれたら将来はないと思った」と当時を振り返る。

さらに米国の販売会社が円高の影響で赤字となり、銀行にも融資を断られる。しかし宏治氏は、あえて再建を決断して米国に工場を建設、現地生産に踏み切った。
「社内報」の作成にこだわり、暇があれば見ている

ようやく開発した万能ナイフは売れず、倉庫には3億円分の在庫の山が積み上がったが、それでも諦めなかった。2001年、社内で「国際包丁プロジェクト」を発足、世界で売れる包丁の開発に乗り出して「旬」が生まれた。

包丁のみならずポケットナイフなどでも大ヒットし、今やアメリカ海軍用にもナイフを生産、世界79カ国で展開している。遠藤氏は、「伝統ある会社ほど新しいものにチャレンジすることが、伝統を守ることになる」と話した。

関市の貝印工場では、1日1万本の包丁が作られる。ライン製造の機械まで自社のノウハウがつまったオリジナルマシーンだ。ヒゲの濃い人と薄い人に応じた製品開発に役立てるため、社内にはヒゲの本数を測定する機械まであり、社員全員のヒゲデータがファイリングされているという。

遠藤氏は「社内報」の作成に毎年こだわっており、A4サイズで厚さ1センチほどにもなる冊子だ。ここに全社員の業務目標や結婚・出産の報告などの写真が載っており、暇があれば見ているそうだ。

「社員は家族」という遠藤氏は、「社員が仕事できるのは家庭あってのこと。家庭の大切さを昔から大切にする社風、伝統です」と語り、毎年全社員の結婚記念日にスパークリングワインを贈っている。
使い手に合わせる「野鍛冶」の精神

村上龍が、刀剣の伝統技術を生かして「旬」をヒットさせたことを称賛すると、遠藤氏は、「野鍛冶の精神」という言葉を引いた。昔は包丁や農具などを手がける「野鍛冶」が、使い手の要望や背格好・使い方に合わせてカスタマイズしていたが、同じことを企業として経営者としてやってきたという。

「毎日、世の中の動向や社員の気持ち、お客様の意見に耳を傾ける意識を持つ。『気配り』を2文字にすれば「気配」。気配りしながら、変化の気配を感じるのが企業経営にも大切なことです」

こうした姿勢が、社員一人ひとりを知り尽くす「社内報好き」につながっているのだろう。ひとつ間違えれば危険な刃物を扱うだけに、その気配りは緊張をもって細部まで行き届いていると感じた。

番組ではそのほか、貝印が医療器具でも高い評価を得ていることや、関市の町工場を守るために米国のヒット商品を発注し続けていることなども紹介。信頼感を大事にする「日本的経営」のよい面を維持しているように思えた。(ライター:okei)

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