応募1万人のオーディションでヒロインの座を射止めたシンデレラが、スクリーンから羽ばたく。藤野涼子(15)。本格デビュー作となる主演映画「ソロモンの偽証」(成島出監督)が7日に公開初日を迎える。厳しい演技指導を受けながらの撮影に泣きそうになったこともあったが、「また現場に戻りたい」と言える強さを身に付けた。女優として生きる決意を語った。

 映画「ソロモンの偽証」は、作家宮部みゆきさん(54)の累計発行部数280万部のベストセラーの映画化で前後編2作の話題作。藤野は「知り合いに見られると思うと少し恥ずかしい気もしますが、うれしい気持ちでいっぱいです」と初日が待ち切れない様子だ。

 「テレビに出たかった」と有名子役も所属する芸能事務所の門をたたいたのは小学5年生の時。ところが届く出演依頼は、通行人などエキストラだけだった。一昨年10月、同映画のオーディションに応募した。ライバルは1万人。選考過程で2カ月に及ぶ演技のワークショップ(体験型講座)にも参加した。「演技経験のある子ばかりで、落ちてしまうことばかり考えて毎日怖かった」。成島監督をはじめスタッフによる演技レッスンの厳しさに泣いてしまった日もあった。応募から半年後の昨年4月、ヒロインに選ばれたと知らされた。「落ち着いて振る舞っていましたが、心の中はパニックでした」。撮影は2カ月後に始まった。

 映画は、同級生男子の転落死の真相を探るため、夏休みに「校内裁判」を開く中学生の姿を描いた。いじめ現場を目撃しながら何もできなかったことを厳しく指摘され、泣いてしまう場面では何度も撮り直しになった。「せりふはないのですが、どういう感情でそこに立てばいいのか分からなくなって混乱しました。気持ちを入れるまで本当に時間がかかりました」。その1シーンの撮影だけで丸1日を費やした。

 中学生の共演者たちの演技を見て複雑な思いを抱いた時もあった。「何で私はできないんだろう。悔しいなって。ライバル心も出てきたり、いろいろ考えました」。

 つらく、苦しいと思ったこともあったが、撮影現場に行きたくないと思ったことはなかった。「今もあのころに戻ってまたやりたいと思っています。怒られた時は確かに怖くて泣きたい時もありました。でも振り返ると、全部楽しかった。また監督に怒られたい」。

 役名をそのまま芸名にした。「楽しかったこと、苦しかったことをずっとずっと忘れたくないんです。この名前にすれば、呼ばれるたびに思い出すことができそうなので」。

 いとこの父親がパティシエで、将来の夢として憧れた時もあった。「今回の撮影を通して、これからもいろいろな人の感情が知りたくなった。だから、女優として生きていきたいと思います」。覚悟は決まった。あとは初心を忘れず、階段を1歩1歩上っていくだけだ。【松田秀彦】

 ◆藤野涼子(ふじの・りょうこ)2000年(平12)2月2日、神奈川県生まれ。好きな教科は体育。趣味は読書、映画観賞、編み物。160センチ。血液型B。

 ◆映画「ソロモンの偽証」 クリスマスの朝、2年A組の涼子が同級生の卓也の転落死体を校庭で発見する。警察は自殺と判断したが、涼子のもとに「卓也は殺された」と記された告発状が届く。さらに同級生の松子が交通事故死する。3年生に進級した涼子は夏休みに「学校内裁判」を開廷し、隠された真実を探ることを提案する。前編「事件」は今月7日、後編「裁判」は4月11日に公開される。