韓国WTO提訴:韓国メディア「敗訴する」 危険性の証明困難 過去日本も敗訴

 日本政府は21日、韓国が福島第一原発事故による放射能汚染を懸念して日本からの農水産物輸入を規制している事について、国際貿易のルールに反するとして、世界貿易機構(WTO)に、提訴の前段階となる2国間協議を要請した。2国間で60日以内に問題が解決できなければ、日本はWTOの紛争処理委員会(パネル)に提訴することができる。

 23日に開かれた日韓通商担当相会談でもこの件が議題に上がり、韓国の尹相直(ユン・サンジク)産業通商資源相が宮沢洋一経済産業相に遺憾の意を伝えた。一方、韓国内の専門家の間では、提訴されれば韓国に勝ち目はないという見解が広がっているという報道もある。

◆“万策尽きた”と初のWTO提訴へ
 韓国は2013年9月に禁輸措置を拡大し、福島、茨城、群馬、宮城、岩手、栃木、千葉、青森の8県の全ての水産物の輸入を禁じている。この8県の水産物以外の食品についても、放射性物質の規制を強化した。日本は、こうした韓国側の施策はWTOの「衛生植物検疫措置の適用に関する協定(SPS)」に違反し、禁輸措置は正当性に欠けるものだとして提訴した(WTO発表=ロイター)。

 日本は既に昨年10月のWTOの委員会で、福島産の農水産物の放射性物質は、99%が基準値以下に収まっていたと報告している。また、厳しい対策により、基準値を超えた産品の輸出は完全に水際で阻止されていると主張した。さらに、2014年の国際原子力機関(IAEA)の調査でも、日本の汚染対策は適切であることが証明されたとも強調したという。WTOの日本の代表は今年3月にも、SPS委員会で、日本の食品の放射性物質のレベルは減少を続けており、アメリカ、オーストラリア、EU、シンガポール、ベトナムが既に福島関連の制限を撤廃・緩和していると強調した(ロイター)。

 日本側のこうした再三の主張にもかかわらず、韓国は禁輸措置を緩和していない。そのため、農水省は「これまでの方法では解決できないと判断した」と、初のWTO提訴に踏み切った。一方の韓国政府は日本の動きに対し、「現在、国際的な規範に基づき検討手続きを進めている過程で、日本がWTOに2国間協議を要請したことは遺憾だ」とする声明を発表。「今後、日本との協議の過程で、輸入規制措置が国民の安全を考慮した措置であることを十分に説明し、WTOの紛争解決手続きにより日本側が提起した問題について積極的に対応していく」としている(韓国・聯合ニュース)。

◆日韓通商担当相がジャブの応酬か
 今回の日本側の訴えにより、両国はスイス・ジュネーブに本部を置くWTOで2国間協議を行う事となる。60日以内に問題解決に至らない場合、日本はWTOに国際貿易の専門家によるパネルの設置を要請し、判断を委ねることができる。

 23日にフィリピンで行われた約2年ぶりとなる日韓通商担当相会談は、その前哨戦となったようだ。日経新聞によれば、韓国の尹産業通商資源相は、日本側の提訴に向けた動きを「とても懸念している」と切り出し、宮沢経産相は「国内の水産物もしっかり管理しており、発電所周辺の水からも高濃度の放射性物質は出ていない」と応じたという。一方、韓国・聯合ニュースは、尹氏の遺憾表明に対し、宮沢氏は反論せず、「双方は真摯に相手の発言に耳を傾けた」としている。

 一方、韓国の環境団体は日本の動きに一斉に反発している。22日、10団体が合同でソウルの日本大使館前で記者会見を行い、原発事故は依然収拾されておらず、日本の農水産物からは放射性物質が検出され続けていると指摘。「日本はWTOに提訴する資格はない」「国民の健康を守るための最低限の措置をWTOに提訴するのは、共に被害を受けた隣国に対する非礼だ」などと主張した(聯合ニュース)。

◆韓国メディアの“弱気”の背景に「韓国敗訴」の見立てか
 『韓国経済新聞』も、日本の動きに批判的だ。「日本産の水産物輸入規制がWTO紛争に広がったことは、韓日関係にとってさらなる悪材料だ」と懸念する。同紙は、韓国の措置はEUや豪州、カナダに比べて強い措置だが、近隣の中国や台湾に比べると弱い規制だとしている。また、「(韓国)政府は福島原発事故後、時間の経過に合わせて多様なチャネルを通じて水産物規制緩和の動きを見せていた。こうした雰囲気を日本政府にも非公式的に伝えていた」とし、そのタイミングでの日本のWTO提訴の動きは、改善の兆しも見られる日韓関係に冷水を浴びせた、と政府関係者のコメントを引用しながら批判している。

 ただし、歴史問題関連のニュースなどを受けて一斉に行われる日本批判に比べ、韓国メディアのトーンは今回、比較的控え目だ。多くは事実関係を伝えるに留まり、積極的な論評は加えていない。上記の韓国経済新聞の記事はその数少ない一つだが、その中にヒントが隠されているようだ。同記事は、全体として日本に批判的な論調を展開するものの、「WTOで韓国政府は敗訴する可能性が高いのが専門家たちの見解だ」とも記す。

 同紙は、アメリカが1997年に、反対に日本の禁輸措置(害虫の流入を防ぐためだとして米国産リンゴを禁輸)をWTOに提訴、米側が勝訴した件を例に挙げる。その際、WTOは、禁輸品目の危険性については「輸入禁止国側が科学的に証明しなければならない」と判断した。韓国の専門家らは、今回のケースでも同様に、禁輸措置を取っている韓国側が危険性の立証をしなければならならず、それは「容易ではない」と指摘しているようだ。日本側は、「これまで韓国側の調査に協力してきたが、問題解決には繋がらなかった」としている。

Text by NewSphere 編集部