2004年3月1日月曜日

オリンピック(5)変わる、スポーツの見方 2004.3.X 初出

僕は、シカゴ・ブルズが
デトロイト・ピストンズにどうしても
勝てなくて、マイケル・ジョーダンが
まだ、神様、になっていなかった頃の
NBA、がとても好きでした。

当時、バッド・ボーイズ、と呼ばれていた
デトロイト・ピストンズは
3ガード・ローテーション、という
それまでのセンターやフォワードを
花形とするスタンスでなく
ガードを中心とした戦術で
強くなっていきました。
この時のピストンズのパワーフォワードが
悪童こと、デニス・ロッドマン、だったわけです。
リバウンド、という地味な仕事を
芸術、の領域にまで高めたデニス・ロッドマンの
素養は、デトロイト・ピストンズ時代に
培われたものだと思います。

さらに、ピストンズ、のデイフェンスには
ジョーダンルール、というものがあって
マイケル・ジョーダンにボールが
渡ったら、二人、若しくは、三人で
取り囲んで、膝げりを入れてでも
足を踏んででも、ユニフォームを掴んででも
とりあえず、マイケル・ジョーダンを、つぶす、のです。
この荒っぽいジョーダンルールで
ピストンズは、マイケル・ジョーダンを
完全に封じ込めました。

デトロイトの基幹産業は、自動車産業ですが
80年代後半からジワジワと
日本の自動車産業に押されて
リストラ圧力が加わっていた
当時の多くのデトロイト市民の鬱憤が
バット・ボーイズ、こと
デトロイト・ピストンズのラフなプレイスタイルを
後押ししていたのかもしれません。
やはり、スポーツに、そういった、物語り、が
加わると盛り上がるのだな、と思ってしまいます。

K1、や、プロレス、などは
現在も盛況のようですが
維新軍、や、魔界、といった形での
物語り、の提供を絶えず怠りません。
やはり、アマレス、ではなく、プロレス、なわけです。

翻って最初の話題について考えてみますと
アテネオリンピックの開催国ギリシャでは
全くオリンピックが盛り上がっていないらしい、との
事であります。
たぶん感情移入できる、物語り、がないのではないかと
思ってしまいます。
オリンピック発祥の地、という、物語り、はあるはず
なのですが、今一つ盛り上がりに欠けているようであります。
何だか日本の行く末を見るような気がしてしまいます。
どこの国のチームが勝ってもいいし
ビッグイベントがあってもなくてもいいから
とりあえず、自分の生活、という人が増えていくような
気がします。

そういった中で、日本を応援しろ
日本人選手を応援しろ、と、強制、はできません。
それでは全体主義国家、北朝鮮、と同じです。

アテネオリンピックの開催国ギリシャでは
全くオリンピックが盛り上がっていない。
それを、寂しい、ととるか
成熟、ととるかは、その人の価値観次第でしょう。

スポーツ新聞などは
冷戦期型のスポーツ報道の需要に答えるための
メディアのように思いますが
喫茶店などでスポーツ新聞を広げていたり
するのは、たいてい50代以降の男性ばかりのようです。

スポーツ新聞の見出しは、扇情的に
不特定多数の、国民、に訴えかけるような
感動的なストーリー、を演出していますが
そんな事はどうでもよい、という、国民
若しくは、個人、が増えてきているような
気がします。

だからといって、スポーツ報道、の需要が
なくなるというわけではなくて
スポーツの見方、が変わるのだと思います。
僕はNBA入りを目指して真剣にバスケットボールに
取り組んでいた時期があるので
選手の背後に、隠された壮絶な物語り、であるとか
資本主義陣営と共産主義陣営の対立、であるとか
西洋型近代先進国家の仲間入り、であるとかの
物語り、がなくても、バスケットボールのゲームを
十分楽しんで見れると思うのです。

田伏勇太選手が、日の丸を背負って
NBAに挑戦する、というストーリーがなくても
田伏勇太選手が、いいパスを出したり
巧みなドリブルを見せたりしたら
上手いな、早いな、と楽しんで見れると思うのです。
戦術面においても、これは、ディレイド・オフェンスだな、とか
ダブルチームできたな、といった具合に
楽しんで見れると思うのであります。

やはり女の直感は当たるのかもしれません。
東西冷戦が終わり
1940年体制やら
一億総中流社会やら
明治以来の画一的中央集権化やら
高級官僚主導による護送船団方式やらが
次々と終焉を迎え
中田とイチローは格好いいけど
松井は格好悪い、という時代が
来てしまうのかもしれません。

日本のスポーツ新聞の記者達と
中田英寿選手やイチロー選手の
取材を巡る対立、は
そういった社会構造の変化を
象徴して余りあると思ってしまいます。



-オリンピック(完)-



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